釧路地方裁判所 平成4年(わ)84号 判決 1992年12月09日
本店所在地
北海道根室市弁天町一丁目一〇八番地
マル矢新協水産株式会社
(右代表者代表取締役 矢後義夫)
本籍
北海道根室市双沖一丁目二一番地
住居
同市弁天町一丁目一〇八番地
会社役員
矢後義夫
昭和七年一二月一九日生
主文
被告人マル矢新協水産株式会社を罰金一〇〇〇万円に、被告人矢後義夫を懲役一年に、それぞれ処する。
被告人矢後義夫に対し、この裁判確定の日から四年間その刑執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人マル矢新協水産株式会社(以下「被告人会社」という。)は、根室市弁天町一丁目一〇八番地に本店を置き、水産物の加工及び販売等の事業を営む者、被告人矢後義夫(以下「被告人矢後」という。)は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括する者であるが、被告人矢後は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、仕入経費を過大に計上して、これにより生じた資金を仮名の簿外預金とするなどの方法で所得の一部を秘匿した上、別紙一犯罪事実一覧表記載のとおり、同表の各事業年度の被告人会社の実際所得金額が同表の実際所得金額欄の各金額で、これに対する法人税額が同表の実際法人税額欄の各金額であるにもかかわらず、同表の申告年月日欄の各年月日に、根室市大正町一丁目一番地所在の根室税務署において、同税務署長に対し、右各事業年度の所得金額が同表の申告所得金額欄の各金額で、これに対する法人税額が同表の申告法人税額欄の各金額である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、右各事業年度の正規の法人税額との差額(同表の脱税額欄の各金額のとおり。)を免れたものである(所得の計算は別紙二の1ないし4の各修正貸借対照表のとおりであり、税額の計算は別紙三の1ないし3の各脱税額計算書のとおりである。)。
(証拠)
判示全事実について
一 被告人矢後の当公判廷における供述
一 被告人矢後の検察官に対する供述調書(二通)及び大蔵事務官に対する質問てん末書(一九通)
一 次の者の検察官に対する供述調書又は大蔵事務官に対する質問てん末書(「検」は検察官に対するもの、「大」は大蔵事務官に対するもの。)
山口千春(検及び大・五通)、川島義彦(検及び大)、久保田正己(検及び大)、澤野伸(検及び大)、手塚幸治(大・三通)、渡部和雄(大・二通)、渋谷隆(大・二通)、大澤久恵(大・三通)、矢後一子(大)、宮野洋志(大)、矢後明(大)
一 大蔵事務官作成の計算書、調査書及び報告書計九通
一 商業登記簿謄本
一 押収してある仕入帳二冊(平成四年押第三九号の1、2)
(法令の適用)
罰条 被告人両名 各事業年度ごとに法人税法一五九条一項(被告人会社につき更に同法一六四条一項)
刑種選択等 被告人会社 判示各罪につき、情状により罰金の多額について同法一五九条二項を適用
被告人矢後 判示各罪につき、懲役刑のみを選択
併合罪加重 被告人会社 刑法四五条前段、四八条二項
被告人矢後 同法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い別表一の第2の罪の刑に加重)
執行猶予 被告人矢後 同法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、いわゆる特攻船による密漁かにを密漁業者から仕入れるに当たり、こうした密漁かにの仕入れは現金取引で、しかも密漁業者の名前を表面に出さず、納品書や請求書、領収書等のやり取りもしないという慣行があることを奇貨として、仕入価格を過大に計上し、あるいは架空仕入を計上することにより、裏金を作り出し、それを仮名預金とするなどの方法で所得を隠匿し、法人税を不正に免れたという事案である。犯行の期間は三事業年度にわたり、合計するとそのほ脱金額は五〇〇〇万円を超え、ほ脱率も約九一パーセントという高率であって、被告人らの刑事責任は重いと言わざるを得ない。しかしながら、国税当局の査察調査が始まるや、被告人矢後は直ちにほ脱の事実を認め、被告人会社は、修正申告を行った上、それに基づいて本税のほか重加算税等の附帯税も完納していること、被告人会社においては新たに外部から監査役を迎え入れ、今後は経理及び税務に適正を期すべく態勢を整えていることなどの事情を勘案すると、被告人らをそれぞれ主文掲記の刑に処した上、被告人矢後についてはその刑の執行を猶予するのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
〔検察官瀧澤佳雄及び弁護人高橋良祐出席〕
(裁判長裁判官 川合昌幸 裁判官 牧賢二 裁判官 蓮井俊治)
別紙一 犯罪事実一覧表
<省略>
別紙二1
修正貸借対照表
<省略>
別紙二2
修正貸借対照表
<省略>
別紙二3
修正貸借対照表
<省略>
別紙二4
修正貸借対照表
<省略>
別紙三1
<省略>
別紙三2
<省略>
別紙三3
<省略>